大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2975号 判決

(三) 右(一)(二)の事実によるならば、控訴人らが短冊型の狭隘な乙地上に八階建てのビルを建築するためには、養生朝顔を四方の隣地上に設置しなければならず、加えるに、建築確認申請の行政指導の実際やトラブルを避けようとする建設会社の社会的信用からしても、近隣者の同意を得ることが必要であった。したがって、乙地に隣接する本件土地に居住している被控訴人がこの同意を拒むならば、控訴人らの予定したビルは事実上建築ができず、ひいては、控訴人らにおいて経済的損失をこうむるに至る。そこで、控訴人らは、近隣者に対し、相当額の隣地承諾料の支払を申し出ることによってビル建築の承諾を得ようとしたのであり、この要望は、商業地域兼防火地域である同所の立地条件に照らして無理からぬものということができ、現に被控訴人も、控訴人らのビル建築そのものについては、異存がなかった。

ところが、被控訴人は、自らも借地たる本件土地上に存する木造の本件建物を取毀して、三、四階の堅固な建物に建替えたいと念願し、本件土地の賃貸人である控訴人らに対して、そのビル建築に同意し協力することの見返りとして本件建物の右建替を無条件で承諾することを要求するに至った。しかし、右要求を実現する前提として、前叙のとおり本件土地の借地条件を変更することが必要であり、その変更のために世上授受される承諾料の金額は、控訴人らのビル建築に伴う隣地承諾料とは比較にならぬほど高額なものと考えられる。のみならず、被控訴人は、本件建物の建替を念願するとはいえ、具体的な計画があるわけではないのであるから、右借地条件変更の承諾については、将来右建替の計画が具体化するときに協議することとし、控訴人らのビル建築に伴う隣地承諾料は、右借地条件の変更とは別の問題として解決を図りたい、とする控訴人らの要望は、もっともなことといわなければならない。

しかるに、被控訴人は、控訴人らの右要望に同調せず、度重なる折衝にも自己の要求をくずさなかった。そのために交渉決裂となれば、控訴人らは、ビルの建築を断念せざるを得ず、そのことを、被控訴人は予測し得べきであったから(その結果控訴人らがこうむる経済的損失につき、どの程度予測し得たかはさておき)、右のような被控訴人の交渉態度は、控訴人らが乙地上にビルを建築しようとすることに便乗して賃借人として多額の経済的利益を収めようとしたものであるというべく、行き過ぎとのそしりを免れない。これをもって、賃貸借契約に基づく信義則上の義務に違反するという控訴人らの主張にも、一理ありというべきである。

しかしながら、そのために賃貸借契約が解除になると、本件借地上で自転車販売業を営み生活している被控訴人としては、建物収去土地明渡を余儀なくされて生活の基盤を失う破目となり、その反面、控訴人らは、経済的に大きい利益を収めることとなる。それに加えて、右に述べた信義則上の義務は、賃料支払のごとく賃貸借契約の要素をなす典型的な義務ではないので、違反者に違反の自覚がなく、ましてやその違反を理由として契約解除になろうとは、予測もしないのが通常であるから(現に、被控訴人にとって本件契約解除は、前認定のとおり思いもよらぬことであった。)、控訴人らとしては、被控訴人に対し深刻な打撃となる契約解除をする前に、予めその警告をし(その結果、被控訴人が翻意すれば、控訴人らも自己の損害を避けることができる。)、それでもなお被控訴人が従前の要求を固執する場合に、賃貸借関係の継続を著るしく困難ならしめる程度に、すなわち契約を解除されてもやむを得ない程度に信頼関係の破壊があったものというべきである。ところが、控訴人らは、本件契約解除前にその警告をせず、また、その警告を不要とすべき特段の事情も認められないから、被控訴人には、未だ右に述べた程度の信頼関係破壊があったものとは認め難い。

(鰍沢 野崎 佐藤)

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